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抜粋 はじめに

 被害者参加制度ができた
 まさか自分や自分の身近な人たちが犯罪に巻き込まれて被害者になるなんて、ふつうは考えもしないことだと思います。だから、2009年に始まった裁判員制度は「聞いたことあるな」とか、「裁判員に選ばれたらどうしよう」と考えたりしたことがあっても、2008年12月から被害者が刑事裁判に参加できる「被害者参加制度」が始まったことは、あまり知られていないかもしれません。

 以前は、「刑事裁判は被害者のためにやっているのではない」といった考え方が社会的にはありましたが、2004年に「犯罪被害者等基本法」という、被害者のことを大切に考える法律ができてから、刑事裁判手続についての法律も改正されて、裁判での被害者を取り巻く状況はすっかり変わってきているのです。

 その法律は、刑事裁判からしめ出されていたような状況だったそれまでの被害者の人たちが、「自分のような悔しい思いを他の被害者にしてほしくない」とがんばって、できたものなのです。

 また、そこからもう少しさかのぼると、2000年には、刑事裁判で証人として証言する被害者を守るための制度や、被害者の気持ちを刑事裁判で聞いてもらえる制度もできています。これも、やっと被害者の声が届いたからなのです。

 参加制度はしたい人だけ、したいところだけ
 2000年よりも前は、被害者には何の配慮もないに等しく、証人として法廷に呼ばれる以外は、傍聴席でほかの一般の人たちとだまって裁判を見ていることしかできませんでした。でも、いまはいろいろな制度ができています。ですから、ぴったりとはいかないまでも、その人の気持ちや考え方に少しでも合ったかかわり方を見つけることができそうです。

 まず、被害者参加制度ができたからといって、被害者が全員参加制度を利用しなくてはいけないわけではありません。

 参加制度を使う場合も「いいとこ取り」ができます。メニューをフルコースで全部頼まなくても、好きなものだけ注文してもいいのです。参加制度を全部自分で利用してみたい人はそうすればいいし、また全部じゃなくてちょっとだけにすることもできます。自分では無理そう…と思えば、弁護士にまるまる代役を頼むこともできます(もちろん、少しだけ代わりを頼むこともできます)。それに、何が起こったのかを知るうえで大切な証拠を見せてもらい、担当の検事さんにしっかり自分の考えを伝え、説明をちゃんと聞きたい、それだけであとは傍聴席にいる、または法廷にも行かない――という参加制度の使い方もあるのです。

 また、そもそも被害者が参加制度を使いたくなければ、利用しなくていいのです。しなくても被害者は法廷で「こわかった/悔しかった」といった気持ちを聞いてもらう別の制度がありますし、それもイヤならば証言だけにしてもらってもいいのです(証言だけは、刑事裁判になる以上、なかなか被害者の自由にはなりませんが… でも、巻き込まれてしまう被害者を守るための制度も、2000年以降、だんだん整えられてきています)。

 このガイドでは、まず第1部で被害者参加制度もほかの制度もひっくるめ、刑事裁判で被害者はどんなことができるのか基礎知識を見ていきます。次の第2部では、被害者がどの程度かかわりたいか/かかわりたくないかを分けて、裁判の手続順にできること/しなくていいことを実践的に見ていきます。第3部にはかかわり方の実例を載せています。

 1つ大切なことがあります。被害者が刑事裁判への参加制度を利用できる/できないなどの最終的な判断もそうですが、判決についても決めるのは裁判官(や裁判員)の人たちです。たとえ被害者が参加制度を利用できることになっても、自分で思いどおりのことが全部できたり、思いどおりの判決を言い渡すことができたりするわけではありません。そのことだけは忘れずに、自分に合った裁判へのかかわり方を見つけましょう。

メッセージ 白井孝一弁護士
       
(NPO静岡犯罪被害者支援センター副理事長)

  これはきっと役に立つ
  つくってくれてありがとう

 警察や、検察庁、弁護士会などが作った本やパンフレットは、あくまで自分たちが制度を説明するという視点で書かれています。それはそれで役立つものですが、それを被害者等が自分で役立たせるには、だれかの助けがないと本当に役立たせることが難しいと思います。
 柳沢さんのこの労作は、いろいろな被害者が自分の背丈にあわせて、自分で選択できるように、徹底して被害者の視点で作られています。刑事手続きに関する著作物ではおそらく日本で初めてのものではないかと思います。
 しかも、難しい法律用語を分かり易く、短い文章で説明しています。これは大変な作業だったと思います。
 それと、実際の被害者の体験を詳しく掲載したことは、この本の説明が単に「研究者の一般向け発表」的な、もっといえば、独りよがり的なものではなく、現実の裏付けのあるものだということを現していて、本の説明に重みを持たせていると思います。
 ここまでくるには、さぞ大変だったでしょう。よくここまでこぎ着けたものだ、と感心しております。
 これから、この本を、犯罪によって被害を受けた人々やその人達と接する弁護士達に是非勧めたいと思います。長いスパンで、ずーつと売り続けてください。

書評 読売新聞 2010年12月8日

犯罪に遭った被害者が刑事裁判に参加できる「被害者参加制度」。2008年に始まったこの制度を中心に、被害者の立場で出来ること、検察官らに頼めることなどを司法手続きの流れに沿って丁寧に説明している。被害者の体験も紹介し、専門用語の解説もわかりやすこ、役に立つ。

書評 ふぇみん 2011年1月15日

2008年から始まった被害者参加制度。それまでは一般人にまじって裁判を傍聴するしかなかった被害者が、裁判にかかわることができるようになった。そのやり方をわかりやすくガイド。誰もが犯罪被害者となりうる。被害者参加人になること、被害者の(心情の)意見陳述制度、証言などができる。

書評 金融財政事情 2017年2月13日

 「お孫さんはお元気ですか?」の限界

            長野 慶太(対米進出コンサルタント/作家)

 長いこと銀行業務をやっていれば、取引先が刑事事件に巻き込まれた話を聞くことが必ずある。長年信頼していた経理部長が使い込みをやっていたり、詐欺商法にひつかかったり、交通事故死もある。多くの場合、われわれは眉間にしわを寄せてうなずくことで同情の念を示しておしまいである。いくら銀行の頭取が中期経営計画で「相談業務」とか「開発渉外」などと意気込んでいても、まさかお客さまも銀行員が刑事事件の相談にのってくれるとは思わない。
 しかし、あまりに刑事裁判プロセスを知らなすぎるとお客さまの気持にきちんと寄り添うことさえもできない。毎度判で押したように「お孫さんはお元気ですか」と聞いたところで、何度教えても孫の名前や年齢を覚えられない担当者の気持のこもっていないおべんちゃらに、お客さまはしらけている。そんなことで時間をムダにするくらいなら、本当にお客さまの悩みを聞いてあげるのがいい。長年、相談業務をやってきた経験から、「聞いてくれてありがとう」といわれるときは本当にお客さまと心がつながった瞬間の一つだと断言できる。
 たとえば、被害者は裁判所の許可を得ることなく法廷で意見陳述ができることをあなたは知っていたか。被害者参加制度という仕組みを使って、証人尋問や被告人質問さえできる。そうしたディテールはこの際どうでもいいのだが、被害者としてできることはなんでもやり、少しでも判事に事実を知ってもらいたい―。その被害者の心情にあなたが寄り添うべきではないか。
 評者は最近、ミステリー小説にとりかかっている関係上、刑事事件、裁判に関する本を100冊ほど読み漁った。警察、検事、被告人弁護士、裁判官、皆それぞれの立場があり、法律に定められた手続は専門家にしか理解できない複雑さのなかにある。しかし、あなたや私はおそらく残りの人生で前記のいずれかの立場になる可能性はゼロだ。むしろ知るべきは被害者の立場つまりあなたのお客さまの立場だ。民事裁判の被害者のために善かれたガイドブックはいくらでもあるが、刑事裁判ガイドはきわめて少ない。そのなかでこの本は良書だ。著者は新聞記者出身なのでとても読みやすい。本書にある裁判の流れ一覧表を5分ながめておくだけでも、お客さまに「聞いてくれてありがとう」といわれるはずだ。預金を預けてくれてもくれなくても、困ったときはお互いさま。「聞いてあげる」というあなたの姿をお客さまはじっとみている。