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抜粋 まえがき

2006年3月カナダで、外国人医学関係者を対象にする英語講座の授業を私は見学していた。生徒は、医師、看護師、保健士、福祉関係者など、医療にかかわる人たちであった。彼らは、出身国では、それぞれの資格を有していたが、カナダで職務に従事するためには、試験を受けて、カナダの資格を取得しなければならない。私のたまたま見学した1時間、脳梗塞、アレルギー、感染症、エイズなど、臨床で接するいろいろの病気がテーマだったが、いちばん時間が割かれたのは、癌、それも乳癌の話であった。
帰国の飛行機の中で、『サンフランシスコ・クロニクル』という新聞が配られたが、中に乳癌の記事があった。現在行なわれている検査では、家族性の乳癌の場合、発症が見落とされる可能性がある。正確に検査する方法の開発へもっとプレッシャーがかけられなければならない、というような記事であった。
このように、あっちでもこっちでも乳癌の話が出るのは、北アメリカでは、女性の8人に1人が乳癌になる、という状況だからである。日本では、2004年、全女性の 人に1人である。それでも驚くほど多いが、数年前の文献では 人に1人、となっていたので、急速な勢いで、アメリカの状況に近づきつつあることを示している。日本の食生活が急速に欧米型になってきたのがその理由であると言われている。現在日本ではそれでもまだ 人に1人でも、まもなく北アメリカのように8人に1人という状況になるということは、容易に考えられる。あっちにもこっちにも、自分も含めて、乳癌患者だらけになる、という状況も、考えられるのである。意識して見回すと、いままで関心がなかったので意識にのぼらなかったが、まわりには何人も乳癌経験者がいるのに気づくのである。
それにしては、乳癌に関する知識を私たちはあまりにも持たなすぎる。医師が私に言ったように、「癌は all or noneなのです。直ってしまうか、転移して命を失うか、どちらかなのです」「適切な時期に適切な治療をすることが必須なのです」。
癌は、二つの特徴を持っている。一つは、命に係わる可能性が高いということ。もう一つは、過去においてはショックを与えるのを恐れて、本人には知らされなかった、ということである。そういうことから、人は、癌の罹患については容易に口にしない。
だから、知識も広まらない。日本女性の 人に1人が乳癌にかかるのに、たいていの患者は、「自分が癌になるなんて、思ってもみなかった」と言う。本人はもとより、周囲の人はなおさらである。でも、家庭でも、職場でも、まわりに女性がいるかぎり、その可能性は 人に1人の割でいるのである。乳癌の発見されるピークは、 歳から 歳である。職場であれ、家庭であれ、その他の社会的活動であれ、女性がフルに必要とされている時期である。そのときになって、あわてふためいているのが現状であろう。
癌の闘病記は、たくさん出ているが、ほとんどは、かなり進行してしまって、本当に「闘病」というにふさわしい状況になってからのものである。だからそれらは、癌は悲惨である、というイメージを与えてしまう。
本書は、癌のうちでも、乳癌のみに絞って述べている。乳癌は、女性のかかる癌のうち、最も頻度の高いものである。しかも、他の癌とは状況がかなり異なるからである。自己診断ができる癌であるし、だから、早期発見のための努力が自分でできる。癌は、早期に発見され、それなりの処置ができると、死亡率は飛躍的に低くなる。0期で発見された場合の乳癌患者の10年生存率は95%、I期で発見された場合は90%である。この中には癌以外で死亡する人も含まれていることを考えれば、健康な人の死亡率とどれだけ異なるであろうか。
乳癌について一般の人々の知識があまりに低いことから、本書は、乳癌になる前の人や乳癌かしらと思う人に、乳癌についての知識を与えることを目的としている。乳癌になる可能性を持つ女性のみならず、男性にも読んでいただきたい。あなたも、あなたの愛する人の乳癌の第一発見者になって、結果的にはあなたのかけがえのない人生のパートナーの命を救うことができるかもしれないのである。周囲の人も、乳癌と聞いたとき、どの程度に何を配慮してあげなければならないかを知っておいてもらいたい。好意からにしろ、その逆からにしろ、現在、あまりに見当はずれの「配慮」および「配慮のなさ」が多すぎるように思えるのである。
「癌なのよ」笑って語る友に泣く (逗子 やせっぽち)

毎日新聞(2006年1月29日)に掲載されていた川柳である。まさに乳癌に対する日本の現在の状況を的確に示している。周囲の人が、癌と聞いたときに感じる心境と、患者本人の、手術を経験した結果、そう心配することもないな、とわかった心境の違いである。過剰反応は、本人にとっても迷惑以外のなにものでもない。
本書は、自分自身、乳癌について無知であった患者が、乳癌が発見されて経験したことをもとに書いたものである。医師による乳癌の本も今ではたくさん出ているが、医師の目とは異なる視点で書かれている。医学的な病気の解説ではなくて、女性である患者本人の、乳癌をめぐる社会的な視点を多く含めた啓蒙書である。とは言っても、医学的な部分については、若く研究熱心な乳癌担当医、日本外科学会認定医、有賀智之医師にチェックしていただいている。超多忙のなか、原稿に目を通し、アドバイスをしてくださった氏に感謝申し上げたい。

2006年11月    
関口 礼子 

書評 婦人通信 2007年4月号

アメリカでは8人に1人、日本でも23人に1人が乳癌になるという。本書は乳癌に全く無知であった著者が、体験を元につづった書。「癌は突然やってくる」と、自分の身に起きたことを受け止め、経過の日付、診察、検査、病院の支払いなど克明に記述。また、乳癌の種類や治療方法にはさまざまな様相があると報告。手術や手術後のストレスの大変さ、患者となって見えてきたことなど、体験談だけではない社会的な視点も含めて書かれている。著者の調べた乳癌の情報も満載。

書評 Amazon.com「カスタマーレビュー」から

癌になるってこういうことか!
, 2007/3/4
レビュアー: 星子
普通に生活している著者が、ある日突然癌を宣告されてからの気持ちの移り変わり・仕事をこなしながらどうやって手術日まで検査を受け、暮らしていくのかあますところなく書かれています。自分も乳がんになったらこういう手順をふんでいくのか、と生活者の見る位置でとらえることができました。癌の情報は今いくらでも入手できますが、この本は入門書になると思います。

知っておきたい乳癌, 2007/3/9
レビュアー: スネチカ (東京都調布市)
3年前に高校時代の友人を乳癌で亡くした。50代後半で・・その前にも近しい人で手術の話はちらほら、そしてその後は周囲でもとても多くなってきていて、しかも年齢が若い!この本によれば23人に1人の率とのこと。著者も突然の自分の体の異変に驚き、医者の話を聞き、情報を集め、どう対処するか思い悩んだ末に、選んだ病院で手術を受ける。その体験、経緯を基に、知りえた医学情報を整理して紹介しつつ、見聞きした数あるタイプの症例をあげて示す。仕事を持つ女性が多いこの時代、増えていく乳癌にあわてずに、どう対応していくか?心理的、社会的な面にも触れて、大変参考になる乳癌入門書。

書評 毎日新聞 2007年4月4日付「再読・熟読」

最近、千葉県の松戸市民病院の医師小倉恒子さんに立て続けに2度会った。一度は慈恵医大柏病院の廊下、もう一度はバス停である。小倉先生は乳癌を手術、十余年を経て「もう大丈夫」と思ったとたんに再発した。また手術。いまも抗癌剤治療を続けて、定期的に肺にたまった水をとる。癌と壮絶な闘いを続けながら、ご自身、耳鼻咽喉科専門医として診療しておられる。昨年、東洋英和大死生学研究所の「生と死」をテーマにした連続講演会に来ていただき、来場者に感銘を与えた。「いつ死んでもおかしくない状態」にあると言いながら、次々新しい治療に取り組み、それを人ごとのように淡々と話す。そんな小倉先生と会って帰宅したら大妻女子大の関口礼子さんから本書が届いていた。関口先生は以前、図書館情報大教授で専門にとどまらず高齢化、情報化、国際化と女性を結びつけて研究するマルチ学者である。そんなタフな先生が乳癌にかかったというのだ。北米では女性の8人に1人、日本では23人に1人が乳癌になるという。食生活の変化により増えているらしい。欧米型に近づいたせいである。関口先生は乳癌と診断されたときから手術を終えて完全社会復帰するまでのすべてを書き記す。お金の話、家族への対応。保険で3割は自己負担だがあとどのくらいかかるのか。単なる闘病記ではない。小倉先生と同じように悲壮感はない。あくまで冷静に自身をみつめる。一読に値する。