ホーム
サイト内検索

抜粋 主な論点

ライフサイクルは大きく変わろうとしている。どのような変化や課題が人生の各ステージにおいて生じているのか、本書で展開される論点を述べておこう。
1)少子高齢社会とはどのような社会だろうか。わが国が少子高齢社会を迎えるのは決して初めてではない。江戸時代にすでに少子高齢社会を経験しているのである。それはいくつかの問題を抱えつつも明るさのない社会ではなかった。当時の人々がどのように対処したかを子育てを中心に検討する(第1章)。
2)現在、子どもをめぐって「異変」が起こっている。しかも校内暴力や「いじめ」、「不登校」だけではなく、見えにくい異変が発生しつつある。これらの問題の背後に何があるのか、子どもの教育を受ける権利の内実を保障するという観点から見て、いかなる教育改革が望ましいかを述べる(第2章)。
3)生活の場であり、子どもの養育と教育を担う家族の崩壊が懸念されている。その現状を分析し、現在の危機を克服するためにはいかにあるべきかを検討する。核家族の境界を柔軟にして、家族を取り巻くさまざまなシステムとどのような協力関係を築くことが必要かを述べる(第3章)。
4)失業、不安定雇用の増大など雇用問題は深刻になっている。雇用の流動化、リストラ、海外進出といった経営戦略は雇用問題をいっそう深刻にしている。この事態の打開と長期安定雇用の維持・拡大が望まれている。今後の安定雇用制度について検討する(第4章)。
5)年金制度の変更によって、年金の世代間格差は拡大し続けている。年金制度は国民の信頼のうえに成立するものであるが、世代間格差の拡大はこの信頼性を失わせる。信頼性回復のための私的年金、公的年金(保険、税)のあり方を考察する(第5章)。
6)高齢社会において、健康や介護に関する不安が高まっている。この不安に対して個々人が私的に対処するには限界があり、社会のセーフティネットとして、医療・福祉制度の拡充が望まれている。医療と介護保険制度の現状を分析し、安全・安心、高齢者自立を保障する条件を分析する(第6章)。
7)結婚の減少、同棲の広がりなどの現状のもとで、これからの家族のあり方を考えるために、法的にも認められたフランスの「連帯の民事契約」(パクス)の実態を述べる。また、フランスにおけるワークシェアリング(労働の分かち合い)の現状、企業側と被雇用者側の立場と問題点を検討する(第7章)。
8) 市場原理主義にもとづく「弱肉強食型競争路線」は国民生活の安全と協力体制を脅かしているが、市場の本来の役割は個人の自由な経済活動を保障し、経済を発展させ国民を豊かにすることである。その前提として相互信頼とルールが確立されていなければならない。これは国家の役割である。また、国家は医療・福祉・教育・環境などのニーズ充足に関して責務を持っている(第8章)。
9) 生涯生活権を保障するライフサイクル、その制度的条件に関して提言を行なう(終章)。
(序章「2 ライフステージにおける課題」より)

書評 出版ニュース 01年6月

成熟社会の指標とは、生涯にわたって安全で安心して暮らせるシステムがどれだけ完備されているかで定められる。もはや高成長は望めない今日の経済政策の下では、これまでのライフサイクルは根底から間われている。本書は「生涯生活権」をキーワードに、少子高齢社会の到来に伴う教育、家族、結婚、雇用、年金、医療、福祉などの間題を具体的に検証し、安全で安心な暮らしを営める新たな社会システムのあり方を展望したもの。本書を構成する研究者たちの専門分野は、経済史、教育学、家族システム論、福祉経済学など多岐にわたるが〈生活設計の不透明さが現在の経済停滞の大きな原因である〉という間題意識を共有することで、政策提言の土台が形成されている。トータルには、現実に進行する市場主義と競争型システムの進行に対して、真に成熟社会の理念を実現するために共生型システムヘの転換が不可欠であると説く。