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抜粋 まえがき

 本書のねらい
 本書が初めて世に出たのは2000年夏のことであり、メディア・リテラシーへの関心が高まりつつあった時期である。初版から4年後、大幅に内容を刷新するとともに、より使いやすさを追求して刊行したのが『新版 Study Guideメディア・リテラシー[入門編]』(鈴木みどり編、リベルタ出版)である。2004年当時の状況について、新版まえがきでは次のように書いている。

 いまや、デジタル・テクノロジーが驚異的に普及し、この技術を駆使した多種多様なメディアが、インターネットをふくめて、いっそう深く私たちの日常に入り込んでいる。しかも、今日の社会では、この新しい技術へアクセスできる者とできない者のあいだで、さまざまな格差が生じている。
「デジタル・デバイド」と総称されるそのような格差は、地球規模でみると、経済的・政治的・社会的・文化的格差と直結しており、あらゆる領域で拡大する不平等・不公正の主要な要因となっている。この問題がどれほど深刻なものであるかは、国連が21世紀の課題と位置づけ、「デジタル・デバイドからデジタル機会へ」(From Digital Divide to Digital Opportunities)をスローガンに「世界情報社会サミット」(WSIS)を開催するなど、積極的な取り組みを始めていることからも推し測ることができよう。
 こうしてみると、21世紀の今日、メディア・リテラシーの育成とその取り組みが以前にもまして重要になっているのは、誰の眼にも明らかである。メディア・リテラシーは、本新版の第1章で示す定義が語っているように、メディア社会を生きる人間の尊厳に深く関わるコミュニケーション能力とその権利の中核をなすものであり、「メディアとの関わりが不可欠なメディア社会における『生きる力』であり、多様な価値観をもつ人々から成り立つ民主社会を健全に発展させるために不可欠なものである」(郵政省「放送分野における青少年とメディア・リテラシーに関する調査研究会報告書』2000年)。

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 本書は、多くの教育関係者や研究者、市民によって活用されて版を重ねてきた。そして、今回、幸いにも最新版として内容を検討し新たに改訂する機会を得ることができた。
 その背景として、テレビ、新聞、雑誌、インターネット、携帯と多種多様なメディアが送り出す種々さまざまな情報がまるで空気のように遍在する「メディア社会」を主体的に生きていくためには、メディア・リテラシーの獲得が不可欠であるという認識がゆっくりとした歩みではあれ、共有されるようになってきたことを挙げることができるだろう。
 とりわけ、私たちは2011年3月11日に東北、関東地方を襲った大地震、津波による未曾有の被害、東京電力福島第1原子力発電所の事故による地球規模の環境汚染というかつてない事態に直面した。東日本大震災について報じる大量の情報に接するなかで、市民の多くはいっそうメディアとの関係を意識するようになった。
 さらに、脱原発を求める市民の動きがツイッターやフェイスブックといった新しいメディアと連動するという社会現象も生み出すに至っている。だからこそ今日、メディアに能動的に向き合い、メディア社会を「生きる力」としてのメディア・リテラシーの重要性は、いくら強調してもしすぎることはないだろう。

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 今回の改訂にあたっては、これまでに全国各地からいただいた数多くのワークショップ報告やリアクションに教えられ、メディアについて実践的に学ぶ方法をよりわかりやすく、ていねいに説明するよう心がけた。しかし、理論にもとづいて系統的かつ実践的に学ぶこと、そのためにワークショップ方式を用いること、という基本的な構想は、初版以来変わっていない。
 本書の読者としては、学校の授業で、あるいは地域で開催される生涯学習講座で、メディア・リテラシーに取り組む中学や高校、大学の学生、講座に参加する多様な市民を想定している。本書を手にしてメディア・リテラシーの学びに参加する人たちが、ファシリテーター/教師とともに、メディアについて学ぶことの面白さ、楽しさを経験し、積極的な活動を展開できるようにとの願いをこめて制作している。
 なお、メディア・リテラシーの学びをより豊富なものにするために、本書とフォーマットを統一して、『Study Guideメディア・リテラシー[ジェンダー編]』(鈴木みどり編、リベルタ出版、2003年)を刊行している。またカナダで制作されたメディア・リテラシーを学ぶためのビデオ・パッケージの日本語版となる『スキャニング・テレビジョン日本版』(鈴木みどり編、イメージサイエンス、2003年)を制作した。これらの教材を併せて活用していただくことをお願いしたい。

 本書の構成
 本書の基本的な構成はこれまでと共通しているが、今回の改訂にあたってインターネットについての新たな章を設けたほか、それぞれの章で今日のメディア状況を反映させて活動を見直し、よりていねいな説明を加えた。巻末の参考資料や参考文献も最近の研究動向を踏まえて補強した。
 第1章では、メディア・リテラシーを学ぶうえで基本となる理論的な枠組みを示している。ここでは、メディア・リテラシーの理解を理論的に深めるために、日本のメディア事情に即した基本概念を構築し、さらにメディア事情を学ぶ場の作り方や学びの場の進め方について詳しい説明をつけた。第2章では、環境化しているメディアについて意識化し、メディアについて学ぶことの大切さと奥深さを知ることで、メディア・リテラシー活動の面白さ、楽しさを体験する。今回は、インターネットの普及を意識して改訂した。この導入の章を経て、第3〜5章では、映像メディアのテレビを中心に、テーマ別にメディアについて実践的かつ系統的に学ぶようになっている。
 新設した第6章では、インターネットをとりあげている。メディア・リテラシーの基本概念を適用してクリティカルに読み解くことにより、インターネットがメディアとして「現実」をどう構成するのか、意識化する学びを提案した。
 内容としては、第2章以下のそれぞれの章で行なう分析、討論、対話を通して第1章で示した理念と基本概念を実践的に理解し、メディア・リテラシーの学びを深めていけるように構成した。さらに各章では、同じテーマで3回または4回シリーズの学びの場をデザインし、回を重ねるごとに理解が深まり、参加者の能動的な学習が促進されていくように企図している。そのために、それぞれの章に記入シートや分析シートをつけ、その拡大コピーを使うことで、参加者の誰もが主体的に学ぶことができるようにした。
 用語解説と多くの参考資料をつけたのも、本書の特徴である。用語解説では、学びのプロセスを中断することのないように、短く平易に説明することを心がけた。より詳細な解説を求める読者のためには参考文献リストを示し、そのなかから適切な文献を選んで独自に探求できるように配慮した。
 巻末の参考資料は、各章の取り組みで使用するものを中心に、メディアの産業や制度としての側面について理解を深めるのに役立つものを集めてある。メディア・リテラシーの取り組みでは、産業や制度としてのメディアについてクリティカルに学ぶことが不可欠なので、文献リストを活用してほしい。

 インターネットサイトの利用
 "情報の海"と呼ばれるインターネットの活用は、メディア・リテラシーの取り組みでもきわめて重要である。そのような認識のもとで1996年に開設されたのが「メディア・リテラシーの世界」(Media Literacy Project in Japan; http://www.mlpj.org/)である。このサイトの運営は、1999年以降、NPО法人FCT市民のメディア・フォーラムの手で行なわれ、現在は、2005年に名称を変更したNPО法人FCTメディア・リテラシー研究所が引き継いで運営している。
 同サイトはリンクの構成に力を入れ、メディア・リテラシーの学びのひろばをインターネット上で構築し、メディアの産業や制度としての側面についてデータの収集を容易にするなど、研究を深めていくことができるようにつくられている。また、国内外のメディア・リテラシー関連機関、市民組織(NPО)とのリンクを展開し、日本におけるメディア・リテラシー活動のネットワーキングの役割も果たしている。
 本書の制作にあたっては、このような特色をもつインターネットサイトをそれぞれの章で活用し、学びの展開がいっそう豊かになるようにしている。本文中にサイトへの案内が記述されていない場合でも、このサイトを使うことで必要な資料を容易に手にすることができるはずである。

 ファシリテーター/教師のための研修セミナー
 本書を使って授業や講座を行なうファシリテーター/教師のために、初版を出版して以来、FCTが、毎年、研修セミナーを開催し、すでに多くの修了者を送りだしている。参加者は全国各地の中学や高校、大学でメディア・リテラシーに取り組んでいる教師や研究者、大学院生、地域の生涯学習講座の企画にかかわる行政関係者、また、それらの講座の講師などを担当する諸市民組織関係者と、多彩である。研修セミナーには留学生や中学生の参加もあり、性別・年齢・国籍・職業・社会的立場を超えて、メディア・リテラシーを短期間に集中的に学ぶためだけでなく、率直に意見を交換し、互いの経験を共有する場としても機能している。
 今回の改訂は、FCTの研究プロジェクトとして新しいメンバーも参加して行なった。みな大学の授業や地域の市民講座での経験を豊富にもっており、そのような場で共有した学びの経験が、前回と同様に、この最新版でも生かされている。学びをともにした多くの学生や市民の方々への私たちの感謝の気持ちをここに記しておきたい。
 編著者の鈴木みどりは、2006年に急逝してすでに私たちのもとにいない。しかし、本書の基本的な枠組みは、鈴木みどり編『新版Study Guideメディア・リテラシー[入門編]』を踏まえているので、引き続き編者としてその名前を刻みたいと思う。

 最新版プロジェクトへの参加メンバー
 今回の最新版プロジェクトに参加したのは次のメンバーである。
鈴木みどり(編著)、田島知之、登丸あすか、森本洋介、西村寿子、宮崎寿子、新開清子、篠塚公、黛岳郎、増田幸子、高橋恭子。