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抜粋 まえがき

2006年5月、行政改革推進法(「簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の推進に関する法律」)が小泉内閣のもとで成立し、国有林野事業の解体・分割・独立行政法人化の方向が法律で決められてしまいました。
行政改革推進法は、「簡素で効率的な政府を実現するための行政改革を推進する」(第3条)ことを目的にしており、国の特別会計改革の一環として「国有林野事業特別会計を見直」すというものです。第28条で、「国有林野事業特別会計については、…その一部を独立行政法人に移管した上で、同特別会計を一般会計に統合することについて、平成22年度末までに検討するものとする」と規定しています。
国有林野事業やその財務会計のあり方が、1998年の抜本的改革で検討されたことをまったく無視し、ただひたすら、「特別会計改革」「特別会計廃止」を推進するために、事業・経営形態を「独立行政法人」に移管させることまで、規定しています。さらに、同法第50条は「国有林野事業の実施主体については、…その職員が国家公務員の身分を有しない法人に移行させることを検討する」としています。
緑資源機構の廃止(2008年3月末)ともかかわり、国有林改革(「一般会計・独法化」)関連法案が、2009年の通常国会に提案され、翌2010年4月からは新体制へ移行されようとしています。2008〜09年は、国有林「改革」作業が具体化する重要な時期にさしかかっています。
本書は、いままさに解体・分割されようとしている国有林野事業の「改革」方向に異議を唱え、22世紀の世代に残っていて良かったと言われる、真の国民のための国有林の再生を求める政策提言を企図したものです。日本の国有林、わが国の森林を、健全な状態に再生させ、次世代に引き継ぐために、いま私たちは何をなすべきかを、皆さんととともに考え、行動につなげていきたいと思います。
この本は、東京林業研究会(山本千秋代表)国有林部会に所属する会員が企画し、執筆・編集を共同作業で成し遂げました。集団作業に参画されたみなさん、特別寄稿いただいた石井寛北海道大学名誉教授ほか5人の方々…に、御礼させていただきます。
             2008年4月
                  著者を代表して 笠原 義人 

書評 日本農業新聞 2008年6月2日

 国民へ判断基準材料提供

 森林は、資源小国日本にとって再生産が可能な貴重な資源であり、国民からは地球温暖化防止での役割など将来に向けて多くの期待が寄せられている。
 本書によれば、日本の森林は第二次世界大戦から高度成長期にかけて成長量を超えて過伐された。輸入が自由化されると外材が急増して国産材の圧迫と森林荒廃を促し、森林の3割を占める国有林は無理な独立採算制と相まって人員激減、管理の粗放・荒廃が進んできた。
 このような状況に対して、政府は「小さな政府」論の立場から2006年5月「行政改革推進法」を成立させ、国有林事業の独立行政法人化の方向を決めた。そして、将来の国有林のあり方や具体化の国民的な検討を経ないまま、国有林改革関連法案を来年の通常国会に提案する予定である。
 国有林は、木材などの生産、国土・環境の保全やレクリエーションの場の提供、地域振興への寄与など極めて多面的で公益的な諸機能を有している。わが国の将来を考えるとき、今こそ目先の経済効率に偏らない国民のための国有林の議論が求められている。
 本書の筆者は、1章「国有林はいま」笠原義人(宇都宮大学名誉教授)、2章「行革推進法と国有林」香田徹也(元林野庁職員)、3章「国有林再建の道」塩谷弘康(福島大学教授)の各氏。補論1「地球温暖化防止と国有林」、補論2「世界の国有林改革」が石井寛(北海道大学名誉教授)氏である。
 本書は、わたしたち国民1人1人が国有林の現状をどうとらえ、将来をどう考えるかの判断材料を極めてタイムリーに分かりやすく提供している。
              (元農業者大学校副校長・福田隆義)

書評 農民(農民運動全国連合会機関紙)2008年6月9日

 国民のための国有林再生求める政策提言

 この本は、東京林業研究会(山本千秋代表)国有林部会に所属する会員が企画し、執筆・編集したものです。著者は宇都宮大学名誉教授の笠原義人氏、元林野庁職員の香田徹也氏、福島大学教授の塩谷弘康氏、北海道大学名誉教授の石井寛氏。
 2006年5月に行政改革推進法が成立し、国有林野事業の解体・分割・独立行政法人化の方向が決められました。これは、国有林野事業やその財務会計のあり方が、1998年の抜本的改革で検討されたことをまったく無視し、ただひたすら、「特別会計改革」「特別会計廃止」を推進するために、事業・経営形態を「独立行政法人」に移管させるものでした。
 さらに、緑資源機構の廃止(2008年3月末)ともかかわり、国有林改革関連法案が2009年の通常国会に提案され、2010年4月から新体制へ移行されようとしています。2008〜09年は国有林「改革」作業が具体化する重要な時期にさしかかっています。
 わが国の森林を健全な状態に再生させ、貴重な森林資源を次世代へ確実に手渡すために、私たちはいま何をなすべきか? 本書は、地球温曖化防止と国有林のかかわりや各国の国有林改革も紹介しながら、解体・分割されようとしている国有林野事業の「改革」方向に異議を唱え、真の国民のための国有林の再生を求める政策提言を企図したものです。また、長野県木曽町長の田中勝巳氏など5氏が、現場から説得力を持って訴えています。

書評 しんぶん赤旗(日刊)2008年6月15日

 国民のための林野行政へ改善求め

 かけがえのない国民共有の財産である国有林が、「国有林改革関連法案」として2009年の通常国会に提案され、翌10年4月から新体制に移行されようとしている。
 本書は、冒頭こうした「国有林野事業の『改革』方向に異議を唱え、…真の国民のための国有林の再生を求める政策提言を企図したものです」と述べている。
 著者は、第1章「国有林はいま」笠原義人幸都営大学名誉教授、第2章「行革推進法と国有林」香田徹也・元林野庁職員、第3章「国有林再建の道」塩谷弘康・福島大学行政政策学類教授の3氏と「特別寄稿」として石井寛・北海道大学名誉教授が論文を寄せている。
1982年に発足した中曽根内閣によって、「小さい政府」論が政策の基本として打ち出された。この路線は、レーガン、サッチャーの米・英政権との同一歩調のもとにすすめられた。その理論的な根拠となったのが、「市場原理万能論」を掲げる「新自由主義」学派であった。この「新自由主義」は、@民営化と規制緩和、A福祉、教育、農林業などの予算カット、B貿易・海外投資の自由化などを主張するもので、小泉内閣に引き継がれてきた。そして、今回の「改革」の根源はここにある。
 本書は、こうした背景のもとで林野行政がどんな政策をすすめてきたかについて、その実態を鋭く指摘し、国有林を真に住民・国民のためとするための「提言」を示している。いま、温暖化防止が人類の生存基盤に関わる最優先かつ緊急の課題であり、京都議定書で日本が義務づけられたCO2の6%削減のうち3.9%は森林が担うこととなっている。その実現のためにも、文字どおり地球規模の視点にたっての林野行政の改善・充実を求め、国民的な世論と運動づくりのため、本書の活用が期待されている。
         小池信太郎(公害・地球環境問題懇談会代表幹事)

書評 林政ニュース 2008年6月25日(第343号)

 行政改革の一環として、国有林野事業を一部独立法人化することが決まった。これに対し、「国民の貴重な共有財産を解体・分割・切り売りさせてもいいのか?」と問い返し、独自の提言をまとめて緊急出版したもの。
 提言内容は@「国有林基本法」を制定して国有林の管理経営の目的と理念を明記する、A国有林の土地・林地の売却は原則禁止する、B特別会計を廃止して全面的に一般会計にするとともに累積債務の返済を免除する、C「国有林基金」を創設する―など。森林管理局・署の体制強化や職員の大幅増も必要と訴えている。

書評 住民と自治 2008年7月号

 行政改革推進法のもと、国有林野事業は、特別会計の廃止と独立行政法人化が決まっている。しかし、国民の財産である国有林を、どのように経営していくのかの姿が見えないことから「緊急出版」されたのが本書である。一元的管理のもと国民のための国有林として再建することを柱に、私有林・公有林・国有林という所有の枠を超えた総合的政策のもと、貴重で再生可能な森林を利活用することで地域を活性化するために、@国有林基本法の制定、A管理と計画のあり方、B組織、C財務と会計について提言している。

書評 経済 2008年8月号(No.155)

 日本の森林面積の3割を占め、国民の貴重な共有財産である国有林は、06年成立の行改推進法により事業の解体・分割・独法化が決められ、将来への健全な継承が危ぶまれています。
 本書は、国有林とは何かということから始め、木材の供給、国土・景観の保全、山間地の振興、さらには温室効果ガスの吸収など、多面的な機能をもつ国有林の重要な役割を明らかにします。さらに、戦後の国有林野行政を振り返り、国有林の現状を明らかにしながら、政府の財政や企業の利益にそった「改革」の問題点を批判します。
 最後は、民主的なコントロールによる、国民のための国有林の再生にむけた提言を行います。木曽町の田中町長など現場の声も紹介し、国民的議論を呼びかける1冊です。              (さ)

書評 朝日新聞 2008年7月13日

 森林の公共性とは何かを問い直す

 かつて司馬遷太郎は「土地の公有制」を主張し、また「戦後社会は倫理問題をふくめて土地問題によって崩壊するだろう」と発言していた。土地所有というテーマはある意味で日本社会の核心にある問題だが、それは国土の約7割を占める森林、そしてその森林の3割を占める国有林についてもあてはまる。
 本書はそうした国有林が、2006年の行革推進法を受け独立行政法人化の方向で検討が進められている状況を踏まえ、単純な民営化推進論に疑義を呈しつつ、これからの国有林のあり方について包括的な議論を展開するものである。環境問題への関心が高まる中、「森」についての書物は数多く出されているが、森林の「所有」のあり方や「政策」を正面から議論するものは少なく、その点からも貴重な内容だ。
 本書の前半では国有林をめぐる戦後の政策展開が概観される。戦後復興期から高度成長期にかけて、広葉樹林を針葉樹林に転換する拡大造林の方針のもと、成長量をはるかに超える伐採を続けた結果、森林資源が枯渇して赤字経営に転落した第1期。「改善計画」が開始されたものの実質は事業縮小にほかならず、累積債務が膨れ上がり事実上の破産宣告に至った第2期。「抜本的改革」が唱えられつつなお理念が定まらぬまま現在に至る第3期。こうした政策展開を検証した上で、後半では今後の国有林のあり方に関する四つの基本理念(@持続性原則A地域原則B公共性原則C公開・参打席則)が提示されるとともに、「国有林基本法」の制定など具体的な提言が行われる。
 本書が一貫して問うているのは「森林の公共性とは何か」というテーマであり、また「国有林は誰のものか」という根本的な問いである。そうした追求を通じて、木材自給率が2割にとどまり、「世界有数の森林国であるにもかかわらず、世界有数の木材輸入国」である日本のあり方が問いなおされる。それは、社会保障などを含めて私たち日本人がいま直面している「公共性」をめぐる諸課題の一環をなすものといえるだろう。
                   (千葉大教授・広井良典)

書評 ふぇみん 2008年7月15日号(No.2863)

 食糧問題と農業の危機が注目を集めているが、林業の危機も進行している。グローバル経済が日本の第一次産業を壊滅させようとしているのだ。
 緊急出版の本書を手に取ると、森林浴でリフレッシュなどと言っていられない。日本の国有林が行財政改革の名のもとに解体させられようとしているからだ。
 日本の森林総面積の3割を占める国有林の存在意義は、経済機能(国産材の生産)、公益機能(自然環境の保全、特にCO2の吸収)、地域の振興だといわれる。しかし、小泉政権のもとで行財政改革法が成立、国有林の管理も独立行政法人化するなどの案が検討されているところだという。
 著者らは言う。独法化すれば国有林の分割・民間への売却、解体が進んでしまうと―。
 しかし、林野庁が密室で案を練っている今のうちならまだ間に合うと、民主的なコントロールのもとに、国有林を一元管理すべきだと著者らは国有林基本法の制定など緊急提言をまとめた。
 これだけ温暖化対策が重要視されながら林業に対する冷遇は何だろう。著者らの必死さがわかるだけにもう少し事例を入れてほしい本だ。                             (衣)

書評 議会と自治体 2008年8月号(No.124)

 国有林の役割と現状が、事業関連年表とあわせて、一般の人にも理解できるようまとめられています。
 国有林は木材生産だけでなく、国土・環境の保全、水源の涵養など重要な役割をはたしています。
 いま、国有林野事業が独立行政法人化にむけ、分割・解体の危険にさらされています。独立行政法人化が人減らしの視点だけで、国有林の役割も検討されずに、決定されたことを告発しています。
 地球温暖化抑止が地球的な課題となり、森林の役割がますます重視されているもとで、経済効率一辺倒の分割・解体は許されません。国有林の再生を求める緊急提言も発表しており、議論を深めるためにも、多くの人に一読していただきたい一冊です。

書評 図書新聞 2008年8月2日(No.2880)

 住民に開かれた「森林の公共性」を再生するために
 国有林野事業の「改革」に異議、説得力ある政策提言

 日本列l島は、周知のように造山帯構造であることから、国土の67%が森林面積で占められている。先進国群のなかでも、国土に対する森林面積の割合は際立って高い数値を示していることになる。森林面積2500万ヘクタールのうち、国有林(林野庁の管轄管理)が占める割合は3割の760万ヘクタールであり、多くは奥地の標高の高い脊梁山脈地帯に位置し、その3割が自然公園の区域に、そしておよそ9割(2007年現在)が保安林に指定されでい」(本書16p)る。
 かつてわが国の国営企業を三公社五現業と総称していた。そして、三公社(国鉄、専売公社、電電公社)と四現業(郵政、印刷、造幣、アルコール専売)が既に民営化され、国有林野事業だけが現業官庁としで存続している。しかし、この間の行革推進のなかで、2010年度末までに独立行政法人化とし、予算は特別会計から一般会計にすることなどが、決定している。こうした情勢のなか、著者たちは、「解体・分割されようとしている国有林野事業の『改革』方向に異議を唱え、(略)真の国民のための国有林の再生を求める政策提言を企図し」(14p)て、本書を著したとその主旨を述べている。
 性急で杜撰な行革推進による、民営化とは名ばかりの小泉改革は、郵政民営化に象徴されるように、なんら有用性のない、かたちばかりのものだったことが明らかになっている。小泉(と竹中)は、自身の拘泥した郵政民営化と道路公団改革(と大手銀行の救済)をともかくも実現したいがために、周縁の行革は官僚への全面委譲という従来と変わりのない手法で押し進めてきたに過ぎないのだ。つまり、中枢の官僚機構には一切手を触れず、温存させながら、周縁の行政機構はどんどん縮小・解体させるという荒業を発揮しているだけだといえる。本書に関わる国有林野事業への行革の方向も、まさしくそんな内実が見えてくるようだ(全国各地の国有林地域を管理するものとして営林局、営林署というものがあったわけだが、99年に営林局を森林管理局に、営林署を森林管理署に名称を変え、65年時、14局・350署あったものを、08年時には7局・98署に縮小している。当然、広い地域を少ない人員と所轄署が管理するという退行化をもたらしている)。
 だが、そもそも自然環境にまつわる森林を産業対象として闇雲に大量伐採を繰り返し、産業木材がコストの安い外材に依存するようになった果てには多額の負債を蓄積するという、国有林野行政の失態が露呈したのだから、早めに行革対象となるのは必然的なことだったといえる。また、直近のことでいえば、99年、森林公団と農用地整備公団が統合されて緑資源公団なるものが発足し、折からの公団改革によって03年に独立行政法人・緑資源機構に改組されるも、官製談合が発覚、政治家を含む関係者2人の自殺者を出して幕引き、機構は廃止されて森林農地整備センターなどという不分明な組織に移管している。
 国有林野事業なるものといえども、官僚や官僚の天下り先企業の利権の場所であることには変わりはなく、著者たちもいうように、「結局のところ、国有林は、主要な側面としては、戦前・戦後を通じて、住民・国民のための森林ではなく、『お上の山』『霞が関の山』であり、林野庁首脳部は、住民・国民ではなく大企業や政治家の方を向いて、国有林の経営を行ってきた」(136p)ということなのである。
 ここにきて、行革という耳当たりのいいスローガンで、独立行政法人などという緑資源機構と同じ形態によって国有林野事業を推進するとすれば、結局、特定の民間企業へ全面委託するという無為無策が見えてくるといっていいだろう。
 産業木材の使命が終焉している現在、国有林野事業というものは、著者たちが「国有林の三大使命」として指摘しているような、「林産物の計画的・持続的な供給」、「自然環境の保全・形成」、「農山村地域振興への寄与」ということに集中特化して行うべきものとなっているといっていい。特に、環境への配慮として森林がもつ価値は今後ますます増大していくことは明らかなのだ。それゆえ、「霞が関・利権」で森林環境政策を差配されてはならないということを強調しておく必要がある。
 今後のことに関して、著者たちの考えは、一般会計化は容認しえても、独立法人化に対しては反対であるという立場だ。近年の多くの改組された独立法人が、「国の強力な監督下に置かれたまま予算や人員を削られ、苦しい経営を強いられてい」(171p)る現況に鑑みて、国有林野事業も同じ命運を辿るのを忌避したいからである。だから行政全般の見直しを提言するとともに、住民や国民に開かれた管理運営をする「森林の公共性」を主張している。「国有林は林野庁・林野官僚の『私的』財産では」なく、「国民の信託にもとづき民主的に管理運営」(172p)すべきものであり、また「地域の独占資源ではなく国民共有の財産ですから、その効用や利用は開かれたものであるべきです」(166p)と述べていることに対して、わたしは率直に賛意を表明したいと思う。これまでなにもかも住民・国民の要望など無視したかたちで推進してきた行革である。
 森林自然だけでも、わたしたち共有の切実なものだという意識を、本書を契機として醸成させていき、「森林の公共性」を再生させたいものである。
              (フリージャーナリスト・宗近 藤生)

書評 農政と公務労働 2008年7月号(No.104)

 『どうする国有林』という表題の、ちょっと毛色の変わった本が緊急出版された。

 国民の貴重な共有財産を解体・分割・切り売りさせていいのか!?
 「行革」の名のもと、解体・分割されようとしている国有林。国土を保全し、林産物を供給し、山間地の産業を振興してきた国民の共有財産が危うい。貴重な森林資源を次世代へ確実に手渡すために、私たちはいま何をなすべきか?

 少し過激すぎるような帯コピーが目に飛び込んでくる。
         *    *    *
 手に取って中身を読んでみると、表題や帯コピーとは違って綿密なデータと分析に基づく極めて真面目な本である。
 行革、行革で夜も日も明けない昨今ではあるが、新聞やテレビを賑わせているのは、かなり前の国鉄、電電、専売の三公社の民営化に端を発して、特殊法人や試験研究機関、国立大学等の独立行政法人化、最近では、道路公団、郵便局や社会保険庁の民営化等々であり、国有林はあまり表座敷で大々的に議論されては来なかったように思う。
 かつて国営企業の代名詞として使われた三公社五現業は、国鉄、電電、専売に続いて、郵政、アルコール専売が民営化、印刷、造幣が独立法人化された。その中で、赤字の大きさもあって最後まで唯一国営企業として残っていた国有林は、同じ行革という名ではあるが、関係者にも目立たないように正に今、こつそりと独立行政法人化されようとしている。
          *    *    *
 この本は、国有林の成立とその存在意義、戦後国有林の歩みから説き起こして、国有林経営の行き詰まりから、行革推進の中で、あるいは公社化へ、あるいは環境省へ、はたまた国土省へと、文字どおりさまよえるがごとき国有林の改革検討を経て、急転直下独立行政法人化に至った経過、その間題点を簡潔にかつポイントを押さえて分かり易く紹介している。
 特にこれまで、独立行政法人化された先輩がたどってきた道を踏まえながら、このままの道を進めば、国有林がたどるであろう道筋を明確に示そうとしている努力に頭の下がる思いがする。
 本来、かなり専門的で難しいこの経過と問題点が、現場の具体的な事例や分かり易く分析されたデータを交えて逐一経過を追って紹介されているので、国有林についての知識がない者、関心がなかった者が読んでも、国有林の成立と歩み、その役割、置かれている現状が容易に理解できる。
 編集もずいぶん読み易く工夫されている。
 「私は訴える」として現職や元職の森林管理署の職員、地元の町長、水と自然を守る会の会長など第一線で国有林と向かい合ってきた5名の方のそれぞれの立場からの、切実な経験を踏まえた具体的な訴えが紹介されており、それぞれの方の思いが切々と伝わってきて読み応えがある。
 丁寧に作られた年表も、国有林のたどってきた道を理解するのに大いに助けとなる。また、本文を簡潔に読み易くし、その分、注が丁寧に善かれていて、注自体が、資料編としても使えるように工夫されている。
 さらに、石井寛氏の寄稿、「地球温暖化防止と国有林」と「世界の国有林改革」の2つの補論がいい。特に、後者ではニュージーランド、スウェーデン、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスの事例が紹介されていて、日本と対比しながら興味深く読むことができる。
         *    *    *
 この本は、ただ単に国有林問題の経過と問題点を浮き彫りにしているだけではない。「私たちの提言」として、国有林を再建し真の国有林にするために、「国有林基本法の制定」を始めとする国民の立場に立った具体的な8項目の緊急提言をしている。この提言は、まだ荒削りなところもあるが、今後の国有林のあるべき方向を議論する上で、国有林の実態を踏まえた建設的な提案であり、その方向を示したものである。この提言について関係者だけでなく、広く国民的な議論がなされることが望まれる。
 この本全体を流れている著者集団の思いは、国有林管理経営の目的の「三大使命」(@経済的機能、A公益的機能、B地域振興)と理念の「四大原則」(@持続性原則、A地域原則、B公共性原則、C公開・参加原則)に集約される。
 『地域の木材供給量を維持・増大させることが、地域林業や地域木材加工業を振興させ、地域雇用力を拡大させ、地域国有森林資源が循環的に利活用されることになります。そのことが、林業専門技術者を確保・育成し、あわせて国土災害防止・水資源かん養・生物多様性保全等の公益的機能の発揮にもつながることになるのです。』(本文中の記述より。)なんと切実な訴えであろうか。
 国有林に関心を持っている人や関係者は言うに及ばず、今まで国有林に無関心だった人にも是非とも読んで欲しい本である。
                         (清水 潔)

書評 前衛 2008年9月号(No.834)

 本書は、国有林が果たしている役割と歴史、行革推進法による「改革」のねらいを明らかにし、国有林再建の道を探ります。
 国土の65%を占める森林は、国土保全、水資源のかん養、気候の緩和などの公益的機能と木材生産などの経済的機能をもっています。森林面積の3割は国有林で、森林の機能を持続的・安定的に果たしています。自然公園、世界遺産地域など森林の文化的利用、学術、技術開発のための役割もあります。小泉内閣のもとで2006年に成立した行政改革推進法によって、いま国有林野事業が、解体・分割・独立行政法人化の方向に向かっています。
 貴重な森林資源を次世代に確実に手渡すために、いま何が必要なのかを訴えかけます。                     (昌)

書評 山林 2008年8月号(No.1491)

 近年、内外のファンドが、私たちの暮らしを支えるインフラを買収する動きが活発化している。このような動きが一層加速すると、独立行政法人化の対象となっている一部の国有林に対しても、「資産の証券化」などを介してファンドの魔の手が及んできそうな気がする。
 他方、2006年の「行政改革推進法」の成立以来、行政の減量・効率化を旗印に、国有林の「大改革」が静かに進行している。本書『どうする国有林』は、その題が如実に示すように、今後の国有のあり方に対して、国有林自身・林野庁当局はもちろんのこと、我々国民1人ひとりに対して真剣な議論と適正な判断を迫っている。本書は3章から構成され、それぞれを笠原義人、香田徹也、塩谷弘康の3氏が分担執筆している。いずれの章も、史実に立脚し、かつ国有林の大切さに対する深い思いと論理に基づいて書かれており、是非とも一読をお勧めしたい。
 それでは、なぜ国有林は解体への道を歩むことになったのか、その内外原因として、本書は、戦後の国有林行政(独立採算制へのこだわりや財政投融資の受け入れなど)の失敗や国有林を取り巻く政治的・経済的環境の変化を挙げている。かつて、国有林の制度論的な研究に取り組まれた西尾孝氏によれば、国有林という組織の対応には、内部への制度化(戦前の「保続価値」に基づく組織化)と外部への制度化(戦後の高度経済成長期の外部への対応)の2つの形があるという。今、まさしく求められているのは、新しい「理念」に基づく「内部への制度化jと、国有林の経営に対する国民・住民の参加を配慮した「外部への制度化」の双方への主体的な取り組みであろう。その意味で、本書が、国有林の四大基本理念として、@持統性原則、A地域原則、G公共性原則、C公開・参加原則を掲げ、22世紀を展望した国有林を創るために、@国有林基本法の制定、A管理経営と計画、G組織と人員、C財務と会計の4つの観点から、「8つの提言」をされているのは、大変時宜にかなっている。その詳細は紙数の関係で本書に譲る。
 『どうする国有林』の著者達は、林業関係者はもちろんのこと、我々一人ひとりに向かって「どうする?」と問いかけている。
 本書の構成は以下のとおりである。
  第1章 国有林はいま
  第2章 行革推進法と国有林
  第3章 国有林再建の道
  補論1 地球温暖化防止と国有林
  補論2 世界の国有林改革
  ■私は訴える
               (大日本山林会副会長・箕輪光博)

書評 森林科学(日本森林学会)、2008年10月号(No.54)

 2006年に成立した行政改革推進法において、国有林野事業に関わって特別会計廃止や独立行政法人化などが決められ、現在その具体化の作業が進められている。日本の森林面積の約3割を占め、自然環境保全や林業に関わって重要な位置を占める国有林のあり方を根本から変えようとする改革であるにもかかわらず、この改革をめぐる議論は低調であるといわざるを得ない。
 こうした状況の中で出版された本書は、現在の国有林の改革のあり方を正面から批判し、それにかわる提言を行っており、これから国有林のあり方を議論するうえで必読の文献といえる。
 本書の内容を簡単に紹介すると、まず、これまでの国有林経営の歴史的展開を踏まえながら、今回の行政改革推進法による改革の内容とその問題点を分析し、本改革によって国有林の一元的管理が失われ、国有林の「分割・解体」を結果するとしている。そしてその上で、国有林の再建の方向性として、国有による一元的管理の維持が重要であるとした上で、持続可能な森林経営を行うという持続性原則・国有林が存在する地域住民の福祉向上や地域振興に貢献すべきという地域原則・国有林を住民や国民の基本的人権の保障のために役立てるという公共性原則・国有林の管理経営を民主的なコントロールのもとに行うという公開参加原則の4つを基礎理念として国有林を管理すべきであるとし、具体的な提言を8点にわたって行っている。
 本書は現在の改革に真正面から対抗して論陣を張っているため、国有林管理の基本理念とすべきものは何かという基本をきちんとした上で、具体的な提言を行っており、今後国有林のあり方の議論を行ううえでの基本を提示していることは高く評価される。
 本書において提示された提言については様々な議論があるだろう。現在のように国有林を一元的に管理するのが良いのか、環境省あるいは自治体への移管という選択肢も考えるぺきか、林業活動をどこまで重視すべきか、など本書とは異なった主張を持つ人々も多いかと思う。ただ、現在求められているのは、様々な意見を持った人々が議論を戦わせながら、これからの国有林のあり方を考えていく作業である。そのための基礎を本書は提供してくれており、今後活発な議論を行う上で、本書は様々な刺激を与えてくれる。
 本書を執筆されたメンバーの多くは、これまで国有林問題に取り組んでおられた「上の」世代の方々である。これまでの国有林経営の展開や研究を踏まえて、本改革の評価・批判を行い、あるべき方向性を示すというその責務をきちんと果たされたことに心から敬意を表したいと思う。本書の私たちに対するメッセージは「黙ってないで主張し、議論しなさい」ということだと思う。
                 (柿澤宏昭:北海道大学)

書評 日本の科学者(日本科学者会議)、2009年3月号(Vol.44, No.3)

 3兆8千億円の累積債務を抱えて経営破綻した国有林野事業が、国有林を「名実ともに『国民の森林』とする」ことを標榜する「抜本的改革」の下で再スタートしたのは、1998年であった。それから10年後の今日、国有林は「国民の森林」として再生されるどころか、再び解体・分割の危機に直面している。しかも今回の「大改革」は、「行革推進法」の下で「2010年までに独立行政法人化・一般会計化」という結論のみがすでに規定され、国有林の将来的なあり方に関する議論を一切欠いたまま実行されようとしており、事態は深刻である。わが国の健全な森林づくり、ひいては国民生活に重大な禍根を残しかねない。
 「大改革」の具体的検討は依然として完全な密室作業で行われているため、われわれが入手できる情報は極めて少ない。こうした中で、本書が事の本質を余さず浮き彫りにし、起こりうる事態を鋭く見通しているのは、長年にわたって真の住民・国民のための国有林の再生を求める政策提言を一貫して行ってきた著者らならではであろう。
 第1章「国有林はいま」では、従来の国有林改革がもたらした数々の問題点を振り返り、第2章「行革推進法と国有林」では、「大改革」に至る経緯の分析および独法化の制度的検討から、国による一元的管理の放棄、民間への売却の進行、投機や資産の証券化による国有林資源の蚕食等、国有林が「大改革」によって一気に解体の道を歩む危険性が語られている。第3章「国有林再建の道」では、今日の事態を招いた林野庁による国有林の「私物化」(民主的コントロールの欠如)を鋭く批判すると同時に、森林の公益性と公共性を十分に発揮させる観点から国有林は国が責任を持って一元的管理を行うべきであると主張する。
 従来からの国有林の3大使命(経済的機能の発揮、公益的機能の発揮、地域振興への寄与)に加えて、4原則(持続性、地域、公共性、公開・参加)という基本理念を整理した上で提言される著者の改革案は、現場で働く国有林労働者をはじめ、農山村地域住民を含むさまざまな立場の人びとから賛同を得るものと確信する。国の「理念なき改革」を阻止し、豊かな森林を将来世代へと確実に手渡すために、一人でも多くの人に本書を読んでいただきたい。
                 (大浦由美・和歌山大学)