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抜粋 まえがき

ブルの崩壊、日本経済の低迷などで、乱開発の波が少し静まりつつあるのではないか、ということがよく言われる。果たしてそうであろうか? 確かに、計画が頓挫したり、工事が中止になったりしたケースはあったかもしれない。しかし、少し注意してみると、まだまだ日本中から乱開発の夾雑音が聞こえてくる。悪名高き第2東名の工事は依然として続行されているし、外国からの批判によって右往左往しているものの海上の森での「自然破壊万博」計画は中止されていないし、過半数の住民がノーと言っているにもかかわらず、建設省は吉野川の可動堰建設計画を諦めていない。また、大規模な自然破壊をともなうところから反対の声が強い植樹祭や国体の山岳競技も続いている。そして「ダムはムダ」と言われながらも、日本全土でダム建設計画は後を絶たない有様である。
要するに、国も企業も利権政治家も、金儲けのネタをいくら経済が悪化しているとはいえ、簡単には手放さない、ということであろう。とくに、始末が悪いのは、「ニッポン低国」では、国が率先して、乱開発に手を貸し、自然破壊の先頭に立っている点である。同じ先進国でも、アメリカやカナダ、ニュージーランドでは国立公園の管理は厳正を極めているし、フランスやドイツ、旧ソ連圏では、住民の反対によって原発を廃止している。それらの国と比べると日本は実に情けない。先年、ヨーロッパアルプスに登ろうと画策し、フランスとスイスへ行ったのだが(山行は失敗)、両国で感心したのは、自動販売機の徹底した排除である。たまに、大きな駅などで自販機を見かけるが、あまり利用されていない。ほとんどの住民が店頭で飲食物を買い、それを当然のことと受けとめている。
ひるがえって、我らがニッポンは、まさに自販機天国である。日本では自販機だけで原発1基分の電力を消費していると言われている。山の中をはじめ、かなり不便なところにも自販機がセットされ終日稼働しているのだから電力消費量が増大するのも当然であろう。政府や電力会社サイドは、電力需要に追いつかなくなるといけないから、ダムや原発を作ると抗弁するが、ニーズを意図的に作っているのに過ぎないのではないか。スイスやフランスのように、1度、日本でも、自販機や馬鹿馬鹿しいライトアップを廃止し、ホテルやビルなどの電力の自動作動システムなどを取り入れてみてはいかがなものか。電力使用を過剰にあおり、強引にニーズを生み出し、危険な原発を作ったり、山の中にダムを作ったりすることは絶対に認められない。とは言っても、日本政府は、バブル崩壊後の日米構造協議によって、10年間のあいだに、630兆円もの公共事業を行なうことをアメリカに約束させられている。先の新ガイドライン法案などによってアメリカへの忠犬度をさらにアップさせた日本政府は約束を守らざるをえないだろう。その結果─またまた日本中で響く乱開発の騒音。そして、山における天皇制の威力。
本書第1部は、そうした不幸な星のもと(?)にある日本の山々からの状況報告である。『週刊金曜日』に連載した原稿に、羅臼岳、斜里岳、大朝日岳、武甲山、久住山などを追加した。また『登山時報』(日本勤労者山岳連盟発行)に書いた関連記事も転載させていただいた。
また、第2部の「ニッポン・ブナ山紀行」は、同じく『週刊金曜日』に連載したものであるが、以前から書きたかったテーマである。というのも、あるとき、自然保護関係者から、次のような話を聞いたのである。
林野庁の某高官が国有林視察にやって来てブナの大木を見つけると、持参の杖でブナを叩き、
「この役立たずめがっ 」
と怒鳴ったというのである。そのゴーマン性と認識不足。とても正気の沙汰とは思えないのだが、こうした高級バカ官僚たちが支配しているから日本の山は危機的状況に陥ったのだ。この話を聞いたとき、真底から確認した。そして、いつか、ブナの素晴らしさを書きたい、と考えていた。『週刊金曜日』から話があり、企画が実現でき、6カ所のブナ林を取り上げることができた。ブナ林はまだまだあるし、もっと詳しく書く必要があるのだが、とりあえずはブナ林の素晴らしさ、日本のブナ林が抱える問題点の一端について伝えることができたのではないかと思う。
「百名山」にしても「ブナ林」の問題にしても共通していることがある。それは、登山者をはじめ、市民が守っていかなければ破壊が進行するばかりである、ということである。政府や企業は絶対に守ろうとしないし、本書でも触れているように、むしろ、破壊の確信犯である。市民サイドはどうすればよいのか? 市民オンブズマンを組織する必要があるのではないのか。これ以上、山岳自然を破壊させないために、政府や企業を市民が厳しくインスペクトするのである。簡単にできることではない。山岳会あたりが中心になって取りあえず最初の一歩を踏み出すことが大事なのではなかろうか。
山やブナ林の問題には深刻かつ厄介なテーマが充満しているのであるが、本書では山の楽しみも味わっていただくために、紀行文スタイルの読みやすいタッチで通している。気楽に読みつつ、日本の山やブナ林の現状について想いを抱いていただければ筆者としては望外の喜びである。

書評 赤旗 00年7月3日 潮流欄

山仲間のMさんは49歳、男性。平ガ岳には特別な思い出があります。平ガ岳(2140メートル)は、深田久弥が『日本百名山』にも選んだ利根川源流の名峰です。名前のとおり、頂上付近に平らな湿原が広がります▼登山口まで遠く、頂に達するコースも長大な平ガ岳は、山好きのあこがれの的です。Mさんが訪れたのは四年前です。雨の後の水はけの悪い道。ぬかるみに足をとられ、四苦八苦の山行となりました▼頂上の直下で突然、腰の痛みに襲われました。「しまった」。帰りは4、5時間の道のり。痛みをこらえ、ほうほうの体で小屋にたどりつきました。以後1年、山に登れず。今も時折、腰痛に悩まされます▼そのMさん、最近、『新・傷だらけの百名山』(加藤久晴著・リベルタ出版)を読み、「なんという話だ」と思いました。地図にも載っていない、平ガ岳への近道があるというのです。加藤さんは偶然それを知り、実際に登っていました。「広く、明るい…ブルドーザーで強引に切り開いた道のようだ」▼草木を滅多やたらに切り払い、自然破壊もいいところ。実は皇太子一行の山行のために突貫工事でつくった道だそうです。百名山を回る「皇太子ご一行様」登山の笑うに笑えない愚かさの数々。怒る加藤さんに、「近道」がちょっとうらめしいMさんも同感です▼深田久弥が平ガ岳に登ったのは、登山道もない時代でした。頂上で一夜を明かした彼は、「汚されない自然のままの美しさしに感動し、こう記していました。「道のない山として、その美しい山頂が保存されるに違いない」