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書評 山と渓谷 2002年11月

最後に、人物ものでも遭難ものでもないノンフィクションを一冊。ジャンルで言えば自然保護・環境ものノンフィクションとなる加藤久晴の『傷だらけの百名山』(1994年)がそれだ。本書は、百名山のなかからおもに白馬岳、八ガ岳、白山、富士山、北アルプスを取り上げ、ゴルフ場やスキー場、リゾート、観光道路、ロープウェーなど、さまざまな乱開発に蝕まれている姿をレポートする。さらに筆者の矛先は、山のモラルやマナーをわきまえない常識はずれの登山者や、ブームにあぐらをかいた山小屋経営者にも向けられる。堅いテーマを扱っているにもかかわらずスラスラと読み進められるのは、著者の山行記と並行する形で問題提起がなされているためだ。欲を言えば、登山と開発に対する著者のスタンスをもっと書き込んでもらいたかった(ロープウェーや山岳道路などを批判しながら、著者自身も山行時にはその恩恵に与っているので)。ともあれ、本書から伝わってくるのは「登山者はただ漠然と山に登るのではなく、山を取り巻く今の危機的な状況にもっと目を向けるべき」というメッセージ。登った山の数ばかりが気になる百名山ファンには、『続・傷だらけの百名山』『新・傷だらけの百名山』と併せての一読を強くおすすめしたい。(羽根田治)