レビュー 出版ニュース 2016年01月上旬号

 ごまめの歯ぎしり

 田悟恒雄
 日本出版者協議会理事(リベルタ出版)

 昨秋来、版元各社に「和書ストア売り伸ばしセミナーのご案内」というアマゾンジャパンのお誘い文書が次々届いている。
 この巨人に対し、「出荷停止」やら「ポイントサービス除外要請」やら、あれこれ異議申し立てをしている「一寸の虫」出版協加盟社にも、ハガキ、メイル、電話と、畳み掛けるように熱心な波状攻勢が掛けられたのだ。
 どうやら狙いは、「e託サービス」(アマゾンとの直取引)なるものへの加入を推進することにあるらしい−。「e託契約」を結べば、アマゾン倉庫に在庫を常備することができ、即日発送も可能になる。だから、「売り伸ばし」につながること請け合い、といった塩梅である。
 しかも取次のように、「歩戻し」(新刊委託の際の一種のバックマージン)やら、ジャンル別正味やら、「地方正味格差撤廃負担金」やら、あれこれ要求することがないうえ、在庫保管料や納入手数料も不要。
 支払いサイトは、何やかや名目をつけては支払いを遅らせる取次とは違って、たったの60日。卸し正味だって、通常は60%のところ、セミナー参加者には「特典として66%に」といったリップサービス(?)も忘れない。
 長年、「歩戻し」や「注文支払い保留」など取次の差別的条件に苦しんできた新規弱小版元にとっては、ひょっとして心動かされる話に聞こえなくもない。
 しかし、「うまい話には裏がある」。眉に唾して、じっと見てみると…
「ん、契約期間は1年?」
ということは、その後どうなるかは分からない。2年目から条件引下げなんてことも大いにありうる話。
 実際、アマゾンが上陸したての頃、小社に持ちかけられた直取引の条件は、今にしてみれば途方もなく高率だった。しかし、発送業務まで請け負わなければならないとの話だったので辞退したのだが、先の話からすると、あれから10%以上も下がったことになる。
 ところで、アマゾンが最初に取引を始めたメイン取次は大阪屋だった。ときには「逆ざや」とも漏れ伝え聞くが、あまりの利の薄さに耐えかねたのか、大阪屋がギブアップすると、すぐさまこれを日販に一本化。そしてほどなく、雑誌はトーハンに、と変幻自在に立ち回る。
 こうして「三頭立て馬車」の手綱を引いたり緩めたりして流通をコントロールしながら、飽くなき利益追求に邁進してきた。その帰結が、今回の版元への本格的な「e託加入攻勢」なのだろう。アマゾンは本気で「取次外し」に着手した、とみていいのかもしれない。
 筆者はかつて、DNPなど大手印刷資本が出版業界に本格参入し、「その触手が取次店の領分にまで及んだところで、こんにち液状化しつつある出版界の再編は一応の完成を見ることになるのかもしれません」と書いたことがある(『紙と共に去りぬ』56〜57ページ)。
 だが、あれから5年余を経た今、「触手」の正体は大手印刷資本などではなく、「多国籍企業アマゾンだった」と訂正しなければならない。
 それにしてもアマゾンは、日本の出版業界のウイークポイントを巧妙に突いてきている。前述のような出版取引の差別構造は、多くの版元の「取次離れ」をいっそう加速することになるのかもしれない。
「アマゾン一強体制」の完成を食い止め、日本の多様な出版文化のさらなる発展を確かなものにするため、取次はいますぐ「モグラ叩き」のような役回りはやめて、新規版元を積極的に育成する方向で尽力していただきたいものである。
(以上は、零細出版人の「個人の感想」です。)