レビュー 出版ニュース 2014年10月中旬号

 独占・寡占の弊害

 田悟恒雄
 日本出版者協議会理事(リベルタ出版)

「Amazon Student Program」というのをご存知だろうか? 日本の小売書店業界断トツ1位のアマゾンが、2年ほど前から学生対象に行なっているポイントサービスだ。通常は10%、ときには15%もの高率ポイントを付与している。
 これを実質的な値引き行為であり再販契約違反であるとみた私たちは、アマゾンおよび同社に出版物を卸している日販に対して、上記プログラムから「自社商品」を除外するよう繰り返し求めてきた。
 これに対しアマゾンは、「各出版社様とは契約当事者ではなく、回答する立場にはない」の一点張り。日販はといえば、「アマゾンジャパン様」の不誠実な言い分を取り次ぐだけで、「プログラムからの除外指導は致しかねます」と、木で鼻をくくったような対応に終始した。
 ところで、版元・取次間で締結する「再販売価格維持契約」には概略、こうある―。取次は小売業者との間で再販契約を締結し(第3条)、これを締結しない業者には再販出版物を販売しない(第4条)。版元と取次は、その「定価が維持されるよう誠意をもって相互に協力する」(第5条)。そしてのもしも取次が3、4条の規定に反した場合、版元は取次に「警告、違約金の請求、期限付の取引制限又は期限付の取引停止の措置をとることができる」と。
 この規定にもとづき、版元5社がアマゾンとの取引を停止し、別の4社は日販に対して違約金請求を申し立てた。
 違約金請求に加わった小社の再販契約書には、違約金の金額規定がなかった。そこは7字分の空白になっていたから、百万単位の請求でもよかったのかもしれないが、そこは分相応に「1万円」とさせていただいた。
 果たして請求の3週間後、回答指定日より10日も早く日販から回答が届いた―。1)日販はAmazon Int'l Sales, Incと再販契約を結んでいるから、同契約3、4条に違反してはいない、2)プログラムが再販契約違反かどうか日販が判断するのは困難、3)貴社出版物のプログラムからの除外を「Amazon様」に指導することはできない、4)違約金は支払いしかねる。と。
 万事窮す。わが出版業界のリーディングカンパニーは、世界を股にかける「ガリバー」アマゾンの前に、完璧にひれ伏してしまったのである。
 こう言い切ってしまっては、今後アマゾンがサービス対象を一般顧客にまで広げようが、割引率をさらに上げようが、文句は言えまい。アマゾンの攻勢に苦しむリアル書店を見捨て、自らが拠って立つ基盤を掘り崩すことになりはしまいか。
 そして、問題の背景に潜む「グローバル企業の税逃れ」問題に言及しないわけにはゆくまい。
 「Amazon.co.jp」で書名をクリックした読者は、アマゾンジャパンから本を買ったと思っているだろう。ところがどっこい、先の日販の回答にあったとおり、日販の取引相手は「アマゾンジャパン」ではなく、米西海岸はシアトルに本社を置く「Amazon Int'l Sales, Inc」なのだ。
 こうして、日本の法人税を逃れるばかりか、内国税としての消費税も免除される。あるいは後で「輸出先」の「Amazon」社に還付されるのだろう。このからくりについて、日本政府は「個別・具体的な事情」だからと、国会議員の質問趣意書に対しても、真相を詳らかにしない。
 つまり、高率ポイントの源泉はここにあるのだ。税負担だけでこれほどのハンディをつけられれば、リアル書店が立ち行かなくなるのは当然の理。
 独占・寡占の弊はいま、日本の出版界を崖っぷちに追いやりつつある。