レビュー 出版ニュース 2013年8月中旬号

 お白洲の顛末

 田悟恒雄
 日本出版者協議会理事(リベルタ出版)

 本誌昨年11月中旬号に「零細出版人、お白洲に座す」を掲載していただいた。
 あれからほどなくして結審、出版者に対する訴訟と所在不明の著者に対する訴訟が分離され、当方には、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」という判決が下された。
 だが、これで一件落着とは行かなかった。私に全面勝訴判決が出た一方で、一度も裁判に応じることのなかった著者については、「欠席判決」で一部の著作権侵害が認められてしまった。いわば、「股割き判決」なのだ。
 これに不服の原告は控訴、零細出版人は、今度は神戸地裁のお白洲に座すことになった。
 前回も記したように、原告は、原発事故による淡路島への避難を奇貨として提訴に及んだと思えるのだが、おかしなことはそればかりでなかった。
 一審の審理過程で、この原告が同じ洲本簡裁の同じ裁判官のもとで、別の著作権訴訟を起こしていたことが判明したのだ。HP業者相手のその裁判の判決は、損害賠償額締めて5千円也(!)の原告勝訴だった。
 ところが、件の判決理由を読んでみて驚いた。エキゾチックアニマルなる希少動物の飼育法について書かれた「原告HP文章には著作物性がある」と、まず原告文章全体に「著作物性」の網をかぶせておいて、これと部分的にも類似した文章は、著作権侵害になる―と、そんな粗っぽい論理構成だったのだ。
 だが、「事実を含んだ表現全体については著作物性が認められても、著作物性のない事実のみの引用に止まっている場合などは、著作権侵害とはならない」(吉田大輔氏)のであり、問題とされた類似個所は、いずれも動物の習性など自然科学的「事実」そのものであった。
 それはまさに、「創作的な表現と認めた部分とは無関係なところが共通しているに過ぎないにも拘わらず類似性を肯定してしまう」といった、北大・田村善之教授の危惧を地で行くような論法だった。
 そこでお二方の知見に加え、同様の判断を下した東京高裁の「解剖書実習基本書事件」判決(平13・9・27)と最高裁の「江差追分事件」判決(平13・6・28)を楯に、そうした手法を論駁したところ、さすがに裁判長も、同じ論法を踏襲するわけには行かなくなった。そこで、当方については著作権判断を避け、「原告提訴棄却」判決を下したのではないかと思われる。
 とはいえ、またしても遠隔地のお白洲である。正直、「もうウンザリ」の気分が募るうえ、控訴審裁判官は、のっけから熱心に「和解」ばかり勧めてくる。
 当初は「いったい何を譲れというのか!?」と突っ張ったものの、いつまでも肩肘張ってはいられない。いったん「和解協議自体はやぶさかではない」と口にするや、毎回、「もう少し何とか…」と、市場の競りの仲買人さながらのやり取りが続いた。
 執拗な波状攻撃に防戦の術もなく、堅い決意も次第に揺らいでくる―。11年も前に出した本だし、最近ではさほど動きもない。おまけに著者は姿をくらましたまま。いい加減、孤軍奮闘も馬鹿馬鹿しく思えてくる。
 ついに音を上げ、控訴人が求める「著者が著作権侵害をしたことは認めよ」との要求をはね付けたうえで、「長期にわたる争いに終止符を打つため、来年3月末日までに当該本を絶版にする」と約束したのだった。電話の向こうの裁判官の安堵の表情が、はっきり読み取れた。
 いかにも不甲斐ない腰砕けの結末ではあったが、"ひとり出版者"としては、本人訴訟によるこれ以上の時間的・経済的損失には耐えられない、というのが偽らざる本心であった。