レビュー ジャーナリスト 2011年12月25日(第645号)

 高山の麗人

花期を終えたチングルマ群落。北アルプス三俣峠で(2010.8)

 北アルプス三俣蓮華岳のピーク直下に、三俣峠という槍・穂高連峰を望む絶景ポイントがある。この周辺山域を歩き始めてかれこれ17年、いつもここで大休止をとり、心ゆくまで絶景を楽しむことにしている。
 ふと近場に目を落とすと、ハイマツ帯のわきにチングルマの群落がある。この高山植物は、夏の盛りに清楚な花を咲かせる。白い小さな花弁の真ん中に麗人のまつ毛のように長い黄色の雄しべをたたえ、遠目には全体が黄味がかって見える。しかも、花期が終わると、エンジ色の「稚児車」(風ぐるま)のような実をつける。それがまた、何とも愛くるしい。チングルマの名はここに由来する。



 高山の随所に夏でも残る雪田周辺。雪が融けたばかりの所にはあの清楚な花が咲き乱れ、少し離れた乾燥地には稚児車が群れている。そして朝露に濡れた巻き毛に逆光が射すとき、それは無性にいとおしく思えてくる。
 5年前に早世した息子は、毎夏3カ月ほど、この周辺の登山道の整備・修復作業に従事していた。人に踏み荒らされガレ場と化した道、雨水に深く抉られた道を岩石や土で埋め戻し、この花の種を蒔いて、元の植生の回復を図っていた。

                (出版部会・田悟恒雄)